Google Chromeの個人情報送信を無効化した高速・軽量ブラウザ「SRWare Iron」
ウェブブラウザ
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投稿 2008/12/29
更新 2019/12/24
「SRWare Iron」は、ドイツの「SRWare」という企業が開発した、Google Chromeをベースにしたブラウザです。Googleは、Google Chromeのベースとなっている”Chromium”と呼ばれるソースコードをオープンソースとして公開しています。SRWare IronはGoogle Chromeと同様に、この”Chromium”をベースにして作られたブラウザで、Google Chromeのカスタマイズ版とも言える高性能なブラウザです。
“Google Chromeをベースにしたブラウザ”であるため、外観はGoogle Chromeとほぼ同じですが、性能面ではSRWare Ironの方が勝っている点が多々あり、数あるブラウザの中でも大変オススメのブラウザの一つです。ドイツ製のブラウザですが、日本語にも公式に対応しているため日本のユーザーでも不自由なく使うことができます。
では早速、SRWare IronとGoogle Chromeとの共通点や勝っている点など、SRWare Ironの特徴をGoogle Chromeと比較しながら見ていきましょう。
SRWare IronとGoogle Chromeの共通点
SRWare IronはGoogle Chromeをベースにしているものなので、FirefoxやOperaなどと比べたときの、その圧倒的な性能はしっかりと維持されています。起動の速さ、ページの読み込みの速さ、動作の軽さなどの点は、Google Chromeとほぼ同じと考えてまず間違いありません。
もちろん、V8というエンジンを搭載したことでGoogle Chromeが「世界最速」と謳った、そのJavaScriptの実行の圧倒的な速さも、SRWare Ironでも完全に維持されています(もちろんSRWare IronもV8を搭載している)。気になる方は、「SunSpider JavaScript Benchmark」で、実際にご自分で比較テストをしてみると良いでしょう。
そして、SRWare Ironの外観はGoogle Chromeと全く同じです。もちろん、多機能アドレスバーやブックマークなどの特徴的な部分の使用方法も全く同じなので、Google Chromeを使ったことがある方ならば、戸惑うことなく使うことができます。
SRWare Ironの見た目や、使用方法など本質的な部分は、Google Chromeと同じと考えて良いでしょう。
SRWare IronがGoogle Chromeに勝っている点
では、気になるSRWare IronがGoogle Chromeに勝っている点を見ていきましょう。
その前に、皆さんはGoogle ChromeがGoogleにユーザーの個人情報を勝手に送信しているということをご存知でしょうか?Google Chromeは、ユーザー一人一人を識別するための固有IDが付加され、各ユーザーのGoogle Chrome上での行動履歴をGoogleが全て把握できるようになっています。つまり言い方を変えれば、ユーザーのプライバシーに関する情報をGoogleに垂れ流しているということにもなります。
もちろん、オプションの設定で、情報を送信しないように設定することもできますが、アップデート機能をはじめ強制的に働いてしまう機能もあるので、完全にGoogleに情報を送信しないように設定することは通常の使用方法では残念ながらできないようです。
開発側にとってはユーザーからのフィードバック情報は欠かせないものですが、当然の事ながら、Googleのこうした個人情報収集行為を「善し」としない考え方もあります。そう言った背景から生まれたのが、SRWare Ironです。
※ちなみに、Google Chromeによる個人情報流出を防ぐためのツールとして、UnChromeというツールもあります。そちらも参考にしてください。
SRWare Ironでは、Google Chromeの個人情報送信機能が無効化されているという利点があります。具体的には、以下のようになっています。
・Chromeではクライアントを識別するための固有IDが作成されるがSRWare Ironでは作成されない
・Chromeがインストールされていたかどうかを認識するタイムスタンプ機能を無効化
・サジェスト機能を無効化
・クラッシュ時に情報をGoogleに報告する機能を無効化
・トラッキング機能を無効化
・アップデート機能を無効化
・URLトラッカー機能を無効化
上記のように、SRWare Ironは基本的にはGoogle Chromeの個人情報収集機能を無効化したものとして開発されたものですが、SRWare IronがGoogle Chromeに勝っている点はそれだけではありません。
Google ChromeやSRWare Ironはアドレスバーに「about:」と入力すると、詳しいバージョン情報が表示されるようになっています。具体的には、以下のものが表示されます。早速、比較して見ていきましょう。
≪Google Chrome≫
Google Chrome: 1.0.154.36 (Official Build 6676)
WebKit: 525.19
V8: 0.3.9.3
User Agent: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; en-US) AppleWebKit/525.19 (KHTML, like Gecko) Chrome/1.0.154.36 Safari/525.19
≪SRWare Iron≫
SRWare Iron: 1.0.155.0 (Developer Build 6886)
WebKit: 528.7
V8: 0.4.6
User Agent: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; en-US) AppleWebKit/528.7 (KHTML, like Gecko) Iron/1.0.155.0 Safari/528.7
上のものは、Google ChromeとSRWare Ironの、2008年12月29日現在の最新版の情報です。
実は、Google ChromeやSRWare Ironは、双方がベースにしているプログラム Chromium のバージョン番号をそのまま名乗っています。上の表を見ていただくと分かるように、Google Chromeのバージョン番号は「1.0.154.36」となっていて、SRWare Ironは「1.0.155.0」となっています。つまり、SRWare Ironの方が一歩前を行っているということになりますね。
Google Chromeは、既に正式版としてリリースされていますが、SRWare Ironはまだ「Developer Build」となっているので、正式版の段階ではないようですが、通常の使用においては、ほとんど不具合はありません。
次に、双方に採用されているレンダリングエンジン、Webkitのバージョン情報を見てみましょう。こちらも、Google Chromeが「525.19」であるのに対し、SRWare Ironは「528.7」と、新しいバージョンのものを搭載していて、SRWare IronがGoogle Chromeを追い越しているのが分かります。
JavaScriptエンジンの「V8」にも、同じことが言えます。Google Chromeが「0.3.9.3」を搭載しているのに対し、SRWare Ironは「0.4.6」と、新しいバージョンのものを搭載しています。
以上のように、バージョン情報を見ただけでも、SRWare Ironの方がGoogle Chromeに勝っている点が多いということが一目でわかります。
先に、「Google ChromeのJavaScriptの実行の圧倒的な速さは、SRWare Ironでも維持されている」と述べましたが、「維持されている」と言うよりもむしろ、「SRWare Ironが勝っている」と言った方が正確です。V8の新しいバージョンのものを搭載していることに起因していると思われますが、JavaScriptの実行速度に関しては、どうやら、SRWare Ironの方が6?7%速度が向上しているようです。
さらには、SRWare IronはベースとなるプログラムのChromiumや、レンダリングエンジンのWebkitにGoogle Chromeよりも新しいバージョンのものを採用していることから、SRWare Ironの方が安定性で勝っている部分がある可能性や、ページの読み込みが高速になっている可能性が高いです。
また、SRWare Ironは広告ブロック機能など、Google Chromeにはない独自機能も備えています。
Acid3ベンチマークテストにて100/100スコアを達成
SRWare Ironの優れた点はまだあります。実はSRWare Ironは、「Acid 3」という、ブラウザのJavaScriptやCSSなどの実装がWEB標準に準拠しているかを判断するための指標となるベンチマークテストで、満点の100/100スコアを達成しています。
Google Chromeが79/100であり、ついでに言うと、同じWebkitレンダリングエンジンを使用したSafari3.2が75/100であることから、SRWare Ironが大変優れていることが分かります。
ちなみに、Firefox3.05のスコアは71/100、Opera9.6は85/100です。
USBメモリに入れて持ち運べるポータブル版
SRWare IronはUSBメモリ等の外部ストレージに入れて持ち運ぶことが出来るポータブル版もリリースされています。本家であるGoogle Chromeもポータブル版のものが提供されていますが、有志の方が独自に作成したもので、Googleから公式にリリースされているわけではありません。
SRWare Ironの場合は、開発元のSRWare社から公式にポータブル版が提供されているので、安心して使うことができます。ポータブル版は通常のインストール版と同様の機能を備えているので、インストールすることによって不具合が生じる可能性が心配な場合や、パソコンにあれこれとソフトをインストールしたくない場合でも手軽にSRWare Ironを試すことが出来るという点でも大変便利です。
SRWare Ironまとめ
SRWare Ironの特長は、ざっと簡単にまとめると、上記のような感じです。Google Chromeのカスタマイズ版とも言えるSRWare Ironですが、決して劣化版などではなく、実用性やプライバシー保護を重視した優れたブラウザだということが分かっていただけたかと思います。
SRWare Ironをインストールする際、言語選択が英語とドイツ語のみとなっていますが、どちらでインストールしてもかまいません。そのままインストールを終了して起動してしまえば、勝手に日本語になっています。もちろん、オプションの設定から変更することも可能です。
SRWare Ironは、プライバシー保護という点でも、Googleによる情報収集を懸念する企業などにおける採用にも選択肢を増やし、Googleに対する意思表示としても興味深いものだと思います。
こうして見ると、いいこと尽くめのSRWare Ironですが、Google Chromeにはない不具合があるかもしれませんし、アップデートの頻度ではGoogle Chromeの方が多く、今後の予定としてFirefoxのアドオンに相当するような拡張機能にも対応していくことを公言していることも含めて考えると、これからSRWare IronはGoogle Chromeに機能面で追い抜かされてしまう可能性もないわけではありませんね。
最終的には、Google ChromeとSRWare Iron、どちらも甲乙つけがたい優れたものと言えるのではないかと思います。