S-Master MX搭載の高音質ウォークマン「NW-A860」レビュー!
買ったものレビュー (イヤホン・ヘッドホン・オーディオ)
約5分で読めます
投稿 2011/10/15
更新 2021/12/18
今回購入したのは、2.8インチタッチパネル液晶やフルデジタルアンプ「S-Master」をモバイル向けに最適化しさらに高音質化をはかったという「S-Master MX」、デジタルノイズキャンセリング、Bluetoothなどを搭載した、ウォークマンAシリーズ「NW-A860」の最上位モデルに当たる「NW-A867」です。
今年の年末にはAndroid 2.3 OSや同じくフルデジタルアンプ「S-Master MX」、NVIDIAの1GHzデュアルコアプロセッサ「Tegra 2」を搭載したウォークマンのフラグシップモデルであるZシリーズ(NW-Z1000)も発売されるため、そちらを待っている人も多いと思いますが、今回少しでも早く「S-Master MX」の音質を手に入れるべく、一足先に発売されたAシリーズを買ってみました。
私はポータブルオーディオの音質にはそれなりにこだわりを持っている方で、イヤホンも普段から5万円クラスのものを使ったり、プレイヤーはiPodよりも音質の良いウォークマンの使用が中心だったりするので、今回は「S-Master」(MXではない)搭載のAシリーズ前モデル(A840?A850)との比較も交えながら、音質を中心にレビューしてみたいと思います。
化粧箱はこんな感じ。少し前の時代のウォークマンはもっと凝った感じの高級感のある箱でしたが、最近はメーカーのSONYとしてもエコを意識しているようで、シンプルな感じの箱になっていますね。
箱を開けてみたところ。付属品は本体のほかUSBケーブルやノイズキャンセリングヘッドホンなどシンプルな構成。Bluetoothやノイズキャンセリング機能については、タッチパネルやS-Master MXと並んで本ウォークマンの目玉機能の一つですが、特に目新しいものではないので今回は割愛します。
本体の筐体前面は光沢のある樹脂で、パッと見た印象ではなかなか高級感があるように感じますが、実際に手に取ってみると若干ながらプラスチッキーな質感がオモチャっぽくもあり、良くも悪くも価格相応なウォークマンらしいデザイン。
背面はつや消し加工済みの樹脂製。これもウォークマンのデザインにおける伝統的な仕様ですが安っぽさは否めないので、もう少し所有欲を満たしてくれるよう、そろそろ一工夫欲しいところ。また本体の重量が見た目よりも少し軽く、それと相まって全体的な質感がいまひとつ足りない根本的な原因になっているように感じます。
電源を入れてみたところ。画面が有機ELだったAシリーズ前モデル(A840~A850)に対し、今回は液晶へと”退化”したわけですが、これが存外に発色が良く、(個体差があるため一般化して言うことはできませんが)不自然に鮮やかな有機ELよりもむしろ画質は向上していることに気づきます。
タッチパネルの感度はほど良く、一週間ほど使ってみましたが「画面に触れたのに反応してくれない」といったストレスを感じる機会は一度もありませんでした。スクロールの加速度がiPod touchと比べると不自然でヌルヌルした動きにも見えますが、慣れてしまえば特に不満は感じません。
また、カタログ的なスペック以外でも注目したいのが、付属ソフトを使用せずドラッグ&ドロップでフォルダに転送した曲も、ウォークマン本体だけでブックマークに登録できるようになっている点。付属ソフトの評判はお世辞にも良いとは言えず、使いたくない人も多い中、これは大きな改善と言えそうです。
操作性について少し気になるのが、画面が消えている状態でもタッチパネルに触れるだけで画面がまた付いてしまう点。操作画面を呼び出すためにいちいちボタンを押さなければならないのも面倒なので、これはこれで使いやすい仕様ではありますが、音楽再生中にポケットなどに入れていると微弱な静電気で誤動作が頻発するのでHOLD必須。
一方、細かいところまでユーザー視点でよく考えられていると感じたのが、HOLDの範囲が「全操作無効」と「タッチパネルだけ無効」のどちらかを選択できるところ。ポケットの中に入れている時は、HOLDの範囲を「タッチパネルだけ無効」にすると誤動作が防げ、再生・一時停止や曲送りなど側面ボタンでの操作が可能です。
前代ウォークマンフラグシップモデルのXシリーズ(NW-X1000)でもかねてから評判が良かった側面ボタンの存在がやはり非常に便利で、本来は電車の中などでズボンのポケットに入れていてもブラインドで操作できるように、というコンセプトですが、個人的にはタッチパネル操作が面倒なとき(曲送りや一時停止などでは2回タッチしなければならないので)など、普段使いでも使用することが多いです。
さて、今回の一番の目的である、進化したフルデジタルアンプ「S-Master MX」について、まずヘッドホンをセットしてみて気付くのが、従来のウォークマンで長らく評判の悪かった”サーッ”というホワイトノイズの量が、劇的に抑えられている点です。
このようなホワイトノイズはほとんどの場合アンプ由来のもので、「S-Master」を搭載していたAシリーズ前モデル(A840?A850)でもかねてから指摘されており、ホワイトノイズのほとんどないiPodに比べ、音質面で唯一ウォークマンが見劣りする”弱点”だったわけですが、それが今回でほぼ完全に克服されたと感じました。
よくよく耳をそばだててみると、それでもまだiPodに比べると若干多いことに気付きますが、インピーダンスの少し高いイヤホンを使えば全く聴き取れないレベルにまで軽減することができ(例えば、上の写真にあるWestone 4(レビューはこちら)ではホワイトノイズは全く聞こえません)、静寂の中から曲本来の音だけがスッと立ち上がって、クリアな音がストレートに耳に入ってくる爽快感がすばらしい!
右が「S-Master」搭載のウォークマンAシリーズ「NW-A840」です。Aシリーズの2世代前のモデルに当たりますが、1世代前の「NW-A850」は「NW-A840」と比べてソフトウェアに一部機能が追加されただけのものなので、音質などハードウェア的なスペックは同じと考えて問題ないようです。
今回「NW-A860」に搭載された「S-Master MX」、SONYによると従来の「S-Master」の回路をモバイル用に最適化したという触れ込みで、個人的には”マイナーアップデートくらいのものだろう”と勝手に解釈していましたが、今回この期待を良い意味で大きく裏切ってくれました。
とにもかくにも音質が劇的に向上していて、ウォークマンにはじめて「S-Master」が搭載された当時は、従来機種と比較して解像度の大幅な向上に驚かされましたが、今回の「S-Master」から「S-Master MX」への移行にも、その時に勝るとも劣らないくらいの驚嘆がありました。
実際に音楽を再生してみてすぐに判るのが、従来の「S-Master」ウォークマンと比べて明らかに音の解像度が大幅に向上しており、一つ一つの音が明瞭に聞こえ、かつ低音がきれいに引き締まっているということ。同時に、それまで聴いていた音の輪郭がぼやけていた印象さえ受けます。
ためしに、新しい「S-Master MX」のウォークマンと、従来の「S-Master」ウォークマンを交互に聴き比べてみると、ノイズの軽減と併せてSONYの触れ込みにあるように、「S-Master MX」では”音のひずみ”が劇的に改善されていることに気が付きます。
一方で、「音の密度が濃くなった」とか、「滑らかになった」というような、音楽ファイルのビットレートを上げたときに感じるような差はほとんどなく、MP3など非可逆圧縮の音源を使用するとギスギスした輪郭がよりはっきりと耳に届いてしまい、長時間聴いているとデジタルデジタルした音に嫌気がさしたり、聴き疲れを起こしやすいかもしれません。
ただ、このような音質の違いをはっきりと感じ取るには最低でも一万円クラスのイヤホンは欲しいところで、ウォークマン本体についても、いままで以上にWAVかLossless音源の使用が望ましいものになっているので、出来れば容量に余裕のある64GBモデルを選びたいところ。
総評としては、デザインや質感、細かい操作性、FLAC非対応など気になる点や要望がないわけではありませんが、それらを差し引いても十分に有り余るほどの劇的な音質の向上が見られ、従来の「S-Master」を搭載したAシリーズやXシリーズのユーザーで、音質にそこそここだわりを持っている人は十分に買い換える価値はあると思います。
また、フラグシップモデルにあたるZシリーズは外出時に音楽プレイヤーとして持ち運ぶにはサイズ・重量ともに大きすぎて使い辛いことも多々ありそうな印象を受けますが、こちらのAシリーズはそういったシチュエーションでの使い勝手に特化したモデルと言えます。
スマートフォンのような多機能端末が当たり前の時代に、音楽再生しか能がないプレイヤーをわざわざ持ち歩くというのもいささか古くさい気がしないわけでもありませんが、「この音質で聴けるなら、他の機能なんて要らない。音楽だけに集中したい。」そんな風に思わせてくれたプレイヤーでもありました。